大阪地方裁判所 平成9年(ワ)6705号 判決 1999年11月25日
原告
アイセル株式会社
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
阪口徳雄
同
谷口達吉
同
向井理佳
右補佐人弁理士
【B】
同
【C】
被告
株式会社椿本チエイン
右代表者代表取締役
【D】
右訴訟代理人弁護士
木下洋平
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりであり、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一一年九月三〇日)
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)
事実及び理由
なお、書証番号は甲1などと略称し、枝番のすべてを示すときは枝番の記載を省略する。
第1 請求
1 被告は、別紙イ号物件目録1ないし6及びロ号物件目録記載の物件を製造、販売、展示してはならない。
2 被告は、原告に対し、金1800万円及びこれに対する平成9年7月16日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
【争いのない事実等】
1(1) 原告は次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 特許第1853507号
発明の名称 回転体固定具
出願日 昭和59年9月3日
(特願昭59-185204号)
公開日 昭和61年3月31日
(特開昭61-62618号)
公告日 平成元年3月2日
(特公平1-12966号)
登録日 平成6年7月7日
(2) 本件発明の特許請求の範囲
別紙特許公報中の平成7年5月15日発行手続補正書(以下「本件補正書」という。)の該当欄記載のとおり。
2 本件発明の特許請求の範囲の請求項1は次のとおり分説するのが相当である。
A 軸に外嵌させた内輪(1)及び外輪(2)を互いにテーパー嵌合させて回転体(B)のボス(4)に挿入し、内輪(1)のつば(11)と外輪相互を複数の締付けボルト(3)、(3)で締付けることにより回転体(B)を軸に固定する回転体固定具において、
B 内輪(1)の大径側端部に続いて形成したつば(11)の外周近傍に、回転体(B)のボス(4)内に極小さなすきまを有するはめあい公差で挿入される小径段部(12)を形成し、
C この小径段部(12)の外周側に続くつば(11)の側面(13)を内輪(1)の軸線に直角な平面部とし、
D つば(11)と内輪(1)との接合部からつば(11)までの剛性を、締付けボルト(3)、(3)の締付けによりつば(11)各断面が僅かに傾斜状態となる程度に、比較的低く設定した
E 回転体固定具。
3 原告は、昭和60年4月ころから、別紙原告商品目録記載の回転体固定具(商品名「メカロック」、以下「原告商品」という。)を製造、販売している(甲18、弁論の全趣旨)。
4 被告は、昭和63年1月ころから平成5年中ころまで別紙イ号物件目録1ないし3記載の回転体固定具を製造販売し、それ以後、同目録4ないし6記載の回転体固定具を製造、販売している(弁論の全趣旨。以下「イ号物件1」などといい、併せて「イ号物件」という。)。
イ号物件は、本件発明の構成要件A、C及びEを充足している(弁論の全趣旨)。
また、被告は、遅くとも平成6年ころから、別紙ロ号物件目録記載の回転体固定具(以下「ロ号物件」という。)を製造、販売している。
【原告の請求】
原告は、被告に対し、<1>被告がイ号物件を製造、販売することは、本件特許権を侵害するとして、イ号物件の製造等の差止めと損害賠償(予備的に不当利得返還請求)を求めるとともに、<2>原告商品の形態は原告の商品表示として周知であるから、被告が原告商品の形態と類似するイ号物件及びロ号物件を製造、販売することは、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するとして、イ号物件及びロ号物件の製造等の差止めと損害賠償(予備的に不当利得返還請求)を求めた事案である。
【争点】
1 イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するか。
(1) 構成要件B該当性
(2) 構成要件D該当性
(3) イ号物件は本件発明の作用効果を奏するか。
2 被告がイ号物件及びロ号物件を製造、販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号に違反するか。
(1) 周知商品表示性
原告商品の形態は原告の商品表示として周知か。
(2) 類似性、混同のおそれ
被告商品の形態と原告商品の形態は類似し、混同のおそれがあるか。
3 損害額(利得額)及び消滅時効
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点1(1)(構成要件B該当性)について
【原告の主張】
(1) 構成要件Bの「はめあい」とは、JISの「はめあい」に対応する。そして常用する「はめあい」には、「すきまばめ」、「中間ばめ」及び「しまりばめ」の三種類があるところ、本件発明では「すきまばめ」を用いるため、「極小さなすきまを有するはめあい」と記載している。
「極小さなすきま」とは、第1に、一般言語上の常識的な解釈の問題として、第2に、本件発明の明細書の解釈の問題として判断されるべきである。
本件発明は、小径段部の外径を回転体のボスの内径とできる限りフィットする大きさにし、それでも挿入の必要上、どうしても生じざるを得ない小径段部とボス間のすきまを、つばの剛性の関係上、ねじを締めたときにつばがたわむという構成でもって、挿入時よりもできる限り小さくし、センタリング効果を高めようとするものである。それ故、この効果が期待できる程度のすきまをもって「極小さなすきま」と解釈すべきである。
この「極小さなすきま」は、観点を変えれば、種々の回転体固定具のうち、小径段部を具備するつばのある形式の回転体固定具を明確にするために採用された修飾語にすぎず、当業者にとっては、自明の要件である。
(2) イ号物件における小径段部のすきまの推奨値は以下のとおりである。
イ号物件1:0.0045~0.0365㎜
イ号物件2:0.005~0.043㎜
イ号物件3:0.005~0.043㎜
イ号物件4:0.15~0.1945㎜
イ号物件5:0.15~0.198㎜
イ号物件6:0.15~0.198㎜
以上のイ号物件のすきまからすると、一般言語上の常識的な解釈として「極小さなすきま」であるといって差し支えないことはもちろんであり、イ号物件において傾斜が生じることは、実験結果(甲8、9)から明らかであるし、センタリング効果を高めることを目的とした商品であることも明らかであるから、イ号物件におけるすきまは、いずれも「極小さなすきまを有するはめあい」と解釈すべきである。
【被告の主張】
(1) イ号物件目録においては、構成要件B中の「極小さなすきま」の要件に対応するものが何であるのか全く判明しないから、イ号物件と本件発明の特許請求の範囲とを対比することはできない。
(2) 構成要件Bは「極小さなすきまを有するはめあい」と記載されているにもかかわらず、原告は「極小さな」の要件を無視し、単に「すきまを有するはめあい」と同義としている。「極小さなすきまを有するはめあい」と単なる「すきまを有するはめあい」とが同義でないことはあまりにも明らかであるから、原告のこのような主張は、主張自体失当というべきものである。
(3) 被告は、カタログ等において、回転体ボスの内径については、ある公差の範囲にあることを推奨しているところ、これらの数値に基づいて算出される、被告が推奨するイ号物件の小径段部の「すきま」が、原告の主張どおりであることは認める。しかし、これらの数値が「極小さなすきま」という要件を充足するか否かの判断基準は、全く示されていない。
2 争点1(2)(構成要件D該当性)について
【原告の主張】
(1) 従来技術による回転体固定具にあっては、つばが十分な剛性を具備するよう設定されているため、小径段部とボスとの間隙が、ボルト締付け後もそのまま残り、小径段部の直径とボスの内径が、はめあい公差の範囲で偏心するという問題点が存した。
そこで、本件発明は、「つば(11)と内輪(1)との接合部からつば(11)までの剛性を、締付けボルト(3)、(3)の締付けによりつば(11)各断面が僅かに傾斜状態となる程度に、比較的低く設定する」という技術的手段により、「締付けボルトの締付けによって内輪(1)のつば(11)のうちボス(4)に挿入される部分の外径を拡大せしめる」という技術的課題を解決し、これにより、回転体(B)のセンタリング効果の向上を図ったのである。なお、「剛性を低く設定」の「比較的」については、「わりあいに」という意味にすぎない。
したがって、「つば(11)と内輪(1)との接合部からつば(11)までの剛性を、締付けボルト(3)、(3)の締付けによりつば(11)各断面が僅かに傾斜状態となる程度に、比較的低く設定した」といえるためには、つばの傾斜による外径拡大を通して、小径段部とボスとの間隙がはめあい公差より縮小していれば足りる。
(2) イ号物件においては、ユーザーが前記推奨値の範囲内ですきまを設定すれば、イ号物件の1ないし3においては、つば11各断面がボス4の全域的に対接するか、あるいはそれに極めて近い状態となることが明白であり、イ号物件の4ないし6についても、小径段部12とボス4の間隙が、つばの傾斜によって、当初よりも小さくなることが明白である。
したがって、イ号物件は、構成要件Dを充足する。
【被告の主張】
(1) イ号物件目録においては、構成要件D中の「僅かに傾斜状態」及び「剛性を比較的低く設定」の各要件に対応するものが何であるか全く判明しないから、イ号物件と本件発明の特許請求の範囲とを対比することはできない。
(2) 構成要件Dの「剛性を比較的低く設定」という構成は、本件発明の不可欠の要件であるところ、原告は、構成要件Dの構成要件を「締め付けボルト(3)、(3)の締め付けによりつば(11)が傾斜状態になること」と読み替えて、イ号物件の構成要件該当性を論じており、失当である。
(3) 「剛性を比較的低く設定」については、そもそも「何と比較するのか」が不明であるばかりでなく、「剛性をどのようにして測るのか」も不明である。さらに、「剛性を低く設定」ということ自体は、いわば「願望」のようなものにすぎず、どのような技術的構成であれば、「剛性を低く設定する」ことができるのか全くわからない。このように、特許発明の要件として技術的構成が不明であったり、要件の計測方法が不明であるような場合は、特許発明と被告製品の対比すらすることができないのであるから、イ号物件が特許発明の技術的範囲に属するという認定は、当然、することがでなきい。
3 争点1(3)(イ号物件は本件発明の作用効果を奏するか)について
【原告の主張】
(1) 本件発明の作用効果を奏しているというためには、つばの傾斜による外径拡大を通して、小径段部とボスとの間隙が、はめあい公差より縮小し、回転体の軸芯と当該回転体が取り付けられる回転軸の軸芯との振れの幅(偏心の幅)が、すきまが縮小した分だけ減少していれば足りる。
(2) 本件補正書によれば、その作用は、「つば(11)の傾斜によって、小径段部(12)の内側の端縁は、ボス(4)の内周面に近接し最終的には全域的に対接することとなる。」とされているが、これは、本件発明のベストの作用状態を指すものに過ぎない。
小径段部の内周側の端縁が、ボスの内周面に全域的に対接する場合には、小径段部とボスとの間隙がなくなり、センタリング効果が最もよく図れるのであるが、このように対接するか否かは、小径段部の外径とボスの内径との間隙の値のごく僅かな差や、つばの傾斜の角度のごく僅かな差といった条件に左右される。
特に、前者の間隙は小さいほど全域的な対接が確保されやすくなるのであるが、この間隙はユーザーによって設定されるものであって、回転体固定具としては、「対接」することを予定して製作されたものであったとしても、ユーザーの使用状態によっては、対接しない状態で使用されることもあるのである。
また、ボスとつばの小径段部が全周にわたって接触しない場合でも、小径段部の一部がボスの内面に接触している場合には、回転軸及び回転体を軸間の生じている方向に押しやろうとする力が働くため、当初のセット状態よりも、偏心度合いが少なくなるように回転軸及び回転体固定具が移動し、本件発明の効果であるセンタリング効果が達成される。
(3) イ号物件が、この本件発明の作用効果を奏していることは、2【原告の主張】(2)で主張したところから明らかである。
【被告の主張】
(1) イ号物件が本件発明の作用効果を奏しない限り、本件発明の技術的範囲に属することはない。
したがって、原告は、イ号物件が「つば(11)と内輪(1)との接合部からつば(11)までの部分の剛性が比較的低く設定されている」構成を有することを前提に、「小径段部(12)の外径とボス(4)の内径とのすきまは、極小さな値に設定されている」構成を採用したため、イ号物件をボス(4)と軸(A)との間に挿入し、締付けボルト(3)、(3)を締め付けることにより、その結果として、「つば(11)の傾斜によって小径段部(12)の内側の端縁がボス(4)の内周面に全域的に対接することにより、回転体(B)の端面が側面(13)に対接した状態で軸(A)に対してつば(11)が密に嵌合して固定される」という本件発明の作用効果を奏することを証明しなければならない。
(2) 原告は、「全域的に対接する」は、本件発明のベストの作用状態を指すものにすぎず、締付けボルトを締め付けた際に小径段部とボスとの間隙が縮小しておれば、本件発明の作用は充足されていると主張する。
しかし、単に締付けボルトを締め付けた際に小径段部とボスとの間隙が縮小したというだけでは、当初、偏心状態で取り付けた回転体の偏心状態を修正することなどできるはずがないから、本件発明が意図するセンタリングが達成されるものではない。
(3) また、回転体固定具において、つばが小径段部を備えるという構成自体は、本件考案の出願当時公知であったところ(乙2ないし5)、この世に完全な剛体というものは存在しないことは技術常識であり、径方向に延びるつばにそれと直角な軸方向の締付け力が加えられたら、つばがある程度傾斜することは当然であるから、原告が、つばの傾斜が起きるということだけで本件特許権の侵害になるということは、上記公知技術も本件特許権を侵害すると主張することになり、このような主張が許されないのは明らかである。
4 争点2(1)(周知な商品表示性)について
【原告の主張】
(1) 原告商品の形態の外観は、次のとおりである。
ア 製品の外周面の外観は、つば11の外側の環状面に締め付けボルト3、3の頭部が配置され、つば11の内側には小径段部12があって、その内側には外輪2との間に隙間が見えるというものである。
イ 製品の軸線方向の一方の外観は、一定幅の環状平面部に締め付けボルト3、3の頭部が環状に連続する形態であり、他方の外観は、環状平面部にネジ孔が環状に連続する形態である。
(2) 原告商品の形態の特殊性
ア 原告商品の形態の特殊性は、内輪1の大径側端部に続いて形成したつば11の外周近傍に回転体Bのボス4のうちに極小な隙間を有するはめあい公差で挿入される小径段部12を形成し、この小径部12の外周側に続くつば11の側面13を内輪1の軸線に直角な平面部としている点にある。
要するに、それまでの同種商品と違って、つば11に小径段部12を形成した点に形態の特殊性がある。
イ この小径段部の存在は、「つば11と内輪1との接合部からつば11までの剛性を、締め付けボルト3、3の締め付けによりつば11各断面が僅かに傾斜状態となる程度に、低く設定した」構成と相俟って、「回転体Bを軸Aに固定した状態では、ボス4と軸Aとの間につば11の断面の一部が締付けボルトの締付け力によって強制的に押し込められた状態となり、回転体Bの端面が側面13に対接した状態で軸Aに対してつば11が密に嵌合した状態に固定されることになるから、回転体固定状態における回転体Bのセンタリング効果が従来のものに比べて一層向上したものとなる」という効果をもたらす。
(3) 原告商品形態の周知性
ア 原告は、長期間相当の費用と労力を加え、そして幾度かの改良を加えた結果、原告商品を開発した。原告は、昭和60年から原告商品の販売を開始し、同年4月から量産体制に入った。
原告は、本件商品の特質を記載した宣伝等を行い、かつ同種の商品を原告が独占的に販売したことから、年々販売数量が増加した。
イ 原告商品のユーザーは、機械によって物を製造する専門業者である。
このような専門業者が原告商品やそれに類似する機械商品を購入するときに最も重視するのは、機能である。したがって、それらのユーザーは、原告商品や他社類似商品がもつセンタリング効果の優劣に着目して、メーカーやディーラーに該当商品の説明を求めたり、機械販売のセールスや宣伝を受け、その吟味の下に商品の発注をする。
原告商品をこの面から見れば、従来の他社類似品と比してセンタリング効果が向上しているという点に特徴があり、その効果をもたらすための工夫なりアイディアにつき、従来製品との違いを種々説明し、ユーザーの理解を得て歓心を買おうとする。
このようなセールス形態や宣伝形態によってユーザーや機械専門業者が最も強く印象づけられるのは、機能とそれをもたらす構成ないし形態であり、従来と違いつば部に小径段部を設けたことによってセンタリング効果を向上させた商品というイメージである。このイメージは、同様の内容でもって継続される宣伝・広告と販売数の増加に伴う口コミ効果により一層高まることになる。
ウ 以上の、この業界の商品の特殊性(設計技術者等が特徴的機能について着目し、かつ特徴機能が形態として現れる部分について強く印象づけられる事情)から見て、原告商品の形態は、遅くとも昭和63年10月末ころには、原告の商品表示として周知性を獲得した。
【被告の主張】
(1) 原告が昭和60年に内輪のつばに小径段部を設けた原告商品の販売を始める以前から、少なくとも、このような技術思想は国内において知られていた。
(2) 原告は、昭和60年始めころから、内輪のつばに小径段部を設けた原告商品を発売開始しているが、被告は昭和63年始めころから、イ号物件の販売を始めているから、少なくとも、昭和63年以降は、市場において、原告と被告の製品が共存し、既に約10年が経過していることは原告の自認するところである。
したがって、原告商品の形態が、原告独自のものとしてユーザーに認識されるはずはない。
(3) さらに、原告、被告以外にも、同種の製品を製造、販売している者が以下のとおり存在している。
ア 伝導工業株式会社は、昭和56年4月20日に近接したころ、内輪のつばに小径段部を設けた回転体固定具を発売した。
イ 株式会社住重エス・エヌビジネスは、平成2年以前に、内輪のつばに小径段部を設けた回転体固定具を発売した。
ウ 鍋屋工業株式会社は、平成6年秋ころ、内輪のつばに小径段部を設けた回転体固定具を発売した。
エ ユニッタ株式会社は、平成7年6月ころ、内輪のつばに小径段部を設けた回転体固定具を発売した。
(4) 以上より、原告商品の形態は、原告の商品表示として周知ではない。
5 争点2(2)(類似性、混同性)について
【原告の主張】
イ号物件及びロ号物件の形態は、原告商品の形態上の特徴を具備しており、原告商品の形態と寸法的微差があるにすぎない。したがって、イ号物件とロ号物件の形態は、容易に原告商品と出所の混同を生じさせるものである。
【被告の主張】
回転体固定具を購入するに際しては、ユーザーは、各メーカーのカタログを入手し、自己の要求に合致する機能と価格のものを選定して、取次店に注文を発するのであるから、ユーザーが、商品の形態だけを手がかりに購入を決定するなどということはない。
したがって、ユーザーは、当該商品の製造元がどこであるかは明確に認識しており、ユーザーが、原告の商品と被告の商品とを取り違えて注文するなどということはあり得ない。
また、被告の商品は、商標と製造元が明確に記載された包装箱に入れられて販売されている。
したがって、商品の出所について混同が生じるというようなことは、到底考えられない。
6 争点3(損害額(利得額)及び消滅時効)について
【原告の主張】
(1) 不法行為に基づく損害賠償請求に関して
被告は昭和63年始めころから本件訴訟を提起する日までに、少なくとも、イ号物件10万個、ロ号物件2万個を製造、販売し、合計3億6000万円(3000円×12万個)の売上を上げているから、原告は、実施料相当額1800万円(3億6000万円×0.05)の損害を被った。
(2) 不当利得に基づく返還請求に関して
被告は、上記実施料相当額を法律上の原因なく不当に利得し、原告は同額の損失を被った。
【被告の主張】
(1) 原告の主張は争う。
(2) 本訴提起(平成9年7月7日)より3年以前の損害賠償請求については、消滅時効を援用する。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(2)(構成要件D該当性)及び(3)(イ号物件は本件発明の作用効果を奏するか。)について
(1) 本件補正書には、次の記載のあることが認められる(甲1の2)。なお、破線は裁判所が付記したものである。
ア 「従来技術及びその問題点」欄
この種回転体固定具としては、すでに、実公昭59-8013号公報に開示のものがある。
このものは、第7図の如く、軸(A)に外嵌する内輪(1)と、この外側の端部に張出させたつば(11)と、前記内輪に外嵌する外輪(2)と、つば(11)と外輪(2)との間に介装螺合せしめられた締付けボルト(3)、(3)とからなり、つば(11)の内側に小径段部(12)を形成している。この従来のものでは、小径段部(12)の外径が軸(A)に固定される歯車、プーリー等の回転体(B)のボス(4)の内径に対して所定のはめあい公差に設定されている。従って、ボス(4)と軸(A)との間に上記固定具を挿入してつば(11)と外輪(2)との間に介装した複数の締付けボルト(3)、(3)を締付けると、外輪(2)と内輪(1)とのテーパー嵌合効果により、内輪(1)が軸(A)に、外輪(2)がボス(4)に、又、内輪(1)、小径段部(12)相互が、それぞれ圧接されて回転体(B)が軸(A)に固定される。このとき、つば(11)の小径段部(12)の直径はボス(4)の内径に対して所定のはめあい公差に設定されると共につば(11)の内径も軸(A)に対して所定のはめあい公差に設定されているから、回転体(B)は軸(A)に対してこれら公差に見合った精度でセンタリングされることとなる。
すなわち、締付けボルト(3)、(3)の締付けトルクのバラツキによる大きな偏心が防止できる。
このことは、特開昭54-118971号公報に開示のものについても云えることであり、このものでは、つば(11)の外径がセンタリング効果を発揮することとなる。
ところが、上記従来のものでは、前記はめあい公差以上のセンタリング効果はなく、はめあい公差の範囲で偏心する。
これは、予め十分な剛性に設定されたつば(11)を具備するものの場合、小径段部(12)とボス(4)との間隙がそのまま最終固定状態の間隙として残るからである。
イ 「技術的課題」欄
本発明は、このような「軸に外嵌させた内輪(1)及び外輪(2)を互いにテーパー嵌合させて回転体(B)のボス(4)に挿入し、内輪(1)のつば(11)と外輪相互を複数の締付けボルト(3)、(3)で締付けることにより回転体(B)を軸に固定する回転体固定具」において、回転体(B)の固定の際のセンタリング効果を一層向上させるために、締付けボルトの締付けによって内輪(1)のつば(11)のうちボス(4)に挿入される部分の外径が拡大せしめられるようにすることをその技術的課題とする。
ウ 「作用」欄
(ア) 内輪(1)及び外輪(2)は、既述従来のものと同様に、回転体(B)のボス(4)と軸との間に挿入され、前記両者間に介装した複数の締付けボルト(3)、(3)を締付けると、既述従来例と同様の作用で回転体(B)が軸に固定される。
(イ) 内輪(1)のつば(11)の外周近傍に形成した側面(13)が回転体(B)の端面の平面部に対して外側から対接するように回転体固定具が装着されることから、回転体(B)の回転面が軸(A)に対して正確に直交する。
(ウ) 締付けボルト(3)、(3)が小径段部(12)の内周側に位置しているから、つば(11)の断面には、締付け状態で前記つばを撓めるような偶力が作用し、その偶力の方向は各部の寸法条件等によって定まり、例えば、外周側で外向きとなり内周側で内向きとなる偶力が作用する。つば(11)と内輪(1)との接合部からつば(11)迄の部分の剛性が比較的低く設定されているから、締付けボトル(3)、(3)の締付けトルクが所定のトルクに達すると、つば(11)の断面は、その内周側がボス(4)内に僅かに入り込んだ状態に傾斜する。
小径段部(12)の外径とボス(4)の内径とのすきまは、極小さな値に設定されているから、前記つば(11)の傾斜によって、小径段部(12)の内側の端縁は、ボス(4)の内周面に近接し最終的には全域的に対接することとなる。
すなわち、ボス(4)と軸(A)との間につば(11)の断面の一部が締付けボルトの締付け力によって強制的に押し込められた状態となり、回転体(B)の端面が側面(13)に対接した状態で軸(A)に対してつば(11)が密に嵌合した状態に固定されることとなる。
エ 「効果」欄
本発明は、上記構成であるから、次の特有の効果を有する。
回転体(B)を軸(A)に固定した状態では、ボス(4)と軸(A)との間につば(11)の断面の一部が締付けボルトの締付け力によって強制的に押し込められた状態となり、回転体(B)の端面が側面(13)に対接した状態で軸(A)に対してつば(11)が密に嵌合した状態に固定されることとなるから、回転体固定状態における回転体(B)のセンタリング効果が従来のものに比べて一層向上したものとなる。
(2) 回転体固定具を用いた場合に、回転体と軸とのセンタリングが問題となるのは、軸の軸芯方向におけるセンタリングと、軸芯方向と直交方向におけるセンタリングがあると考えられるところ、本件発明は、後者のセンタリング効果を向上させる発明を開示したものと認められる。
すなわち、上記センタリングは、いずれも締め付けボルト(3)、(3)の締め付けトルクのばらつきにより阻害されていた。
本件発明は、前記(1)ウ(イ)記載のとおり、前者のセンタリングを、従来技術同様、「小径段部(12)の外周側に続くつば(11)の側面(13)を内輪(1)の軸線に直角な平面部と」することによって(構成要件C)達成している(実公昭59-8013号公報(乙4)第3欄10~23行参照)。
他方、後者のセンタリングについて、従来技術は、つば(11)の小径段部(12)の直径をボス(4)の内径に対して所定のはめあい公差に設定し、つば(11)の内径も軸(A)に対して所定のはめあい公差に設定することにより、公差に見合った精度でセンタリングしていたのに対し(前記(1)ア)、本件発明は、従来技術の問題点として、「はめあい公差の範囲で偏心する」ことを指摘している(同)。これは、回転体を軸に固定したときの回転体の中心と軸の中心が、はめあい公差の範囲でずれるということである。そして、本件発明は、従来技術と同様に、つば(11)の小径段部(12)の直径をボス(4)の内径に対して所定のはめあい公差に設定し、つば(11)の内径も軸(A)に対して所定のはめあい公差に設定することを前提としつつ(構成要件A及びB)、「つば(11)と内輪(1)との接合部からつば(11)までの剛性を、締付けボルト(3)、(3)の締付けによりつば(11)各断面が僅かに傾斜状態となる程度に、比較的低く設定した」(構成要件D)という技術手段を採用することにより、つば(11)の断面を僅かに傾斜させ、「小径段部(12)の内側の端縁を、ボス(4)の内周面に近接、最終的には全域的に対接させる」ことができ、はめあい公差の範囲で偏心することなく、「回転体固定状態における回転体(B)のセンタリング効果が従来のものに比べて一層向上したものとなる。」という作用効果を奏する発明を開示しているのである。
したがって、本件発明特有の作用効果は、つば(11)の断面を僅かに傾斜させ、小径段部(12)の内側の端縁を、ボス(4)の内周面に近接、最終的には全域的に対接させることにより、回転体固定状態における回転体(B)のセンタリング効果を従来のものに比べて一層向上させるものであると解される。
もっとも、実際に回転体固定具を装着するのはユーザーであるから、ユーザーがどのように取り付けたとしても上記作用効果を奏しなければ、本件発明の作用効果を奏していないと考えるのは現実的でなく、当該回転体固定具の外輪及び小径段部が回転体に対し、内輪が軸に対し、それぞれ、はめあい公差で装着される場合であって、回転体固定具を通常の取り付け方法に従って取り付ける場合に(例えば、特定の締め付けボルトを全く締め付けないような場合は除く。)、上記作用効果を奏することをもって、本件発明の作用効果を奏していると評価できるものと解される。
(3) 原告は、つば(11)の傾斜によって、小径段部(12)の端縁が、ボス(4)の内周面に近接し、最終的には全域的に対接するのは、本件発明のベストの作用状態を指すものにすぎず、つば(11)の傾斜による外径拡大を通して、小径段部(12)とボス(4)との間隙がはめあい公差より縮小しておれば、本件発明の作用は充足されているといえると主張する。
ア しかしながら、上記したように、「前記つば(11)の傾斜によって、小径段部(12)の内側の端縁は、ボス(4)の内周面に近接し最終的には全域的に対接することとなる。」との記載は、本件補正書の作用欄に記載されている。
また同書の効果欄には、本件発明の特有の効果であるセンタリング効果の一層の向上が、「回転体(B)の端面が側面(13)に対接した状態で軸(A)に対してつば(11)が密に嵌合した状態に固定されることとなる」ことによってもたらされると記載されているが、同じ記載は、同書作用欄の上記記載に続いて「すなわち」という接続詞の後にも記載されているところからすると(前記(1)ウ(ウ)参照)、効果欄の同記載は、「前記つば(11)の傾斜によって、小径段部(12)の内側の端縁は、ボス(4)の内周面に近接し最終的には全域的に対接することとなる。」ということを言い換えた表現であると認められる。
したがって、本件発明の特有の効果であるセンタリング効果の一層の向上は、「前記つば(11)の傾斜によって、小径段部(12)の内側の端縁は、ボス(4)の内周面に近接し最終的には全域的に対接することとなる。」ことによってもたらされると記載されていると理解することができる。
そして、「作用」及び「効果」欄に記載されている内容は、特段の記載のない限り、当該発明によって奏することができる作用、効果と解すべきである(特許法施行規則(平成2年通商産業省令41による改正前のもの)24条、様式第16備考14ロ、ハ参照)。
したがって、本件補正書の「前記つば(11)の傾斜によって、小径段部(12)の内側の端縁は、ボス(4)の内周面に近接し最終的には全域的に対接することとなる。」という記載を、本件発明のベストの作用と限定して解するのは相当ではなく、本件発明が通常奏する作用、効果と解すべきである。
イ また、本件発明は、従来技術を前提としているから、構成要件Dの構成を具備するまでもなく、外輪(2)と内輪(1)とのテーパー嵌合効果により、内輪(1)が軸(A)に、外輪(2)がボス(4)に、また、内輪(1)と外輪(2)相互が、それぞれ圧接されて回転体(B)が回転体固定具を介して軸(A)に固定され、相当程度のセンタリング効果を奏している(このような圧接がなされて、回転体固定具は、固定具として機能することとなる。前記(1)ア及びウ(ア))。本件発明の目的は、この状態の下でなお生じ得る偏心(回転体固定具を使って回転体を軸に取り付けたときの回転体の中心と軸の中心とのずれ)を防止しようとするものであるが、その原理は本件補正書の記載からは必ずしも明確ではない。しかし、甲19によれば、本件発明による偏心是正の原理は、ボルトの締付けによってつばが傾斜して小径段部の外径が拡大し、拡大した小径段部がボス内周面を押す力の反作用によって、軸及び回転体をすきまの生じている方向に押す力が加わり、それによって軸及び回転体固定具が、回転体と同軸となる方向に移動するものであると認められる。そうとすれば、つばの傾斜によって小径段部がボス内周面に対接し力を加えることが、本件発明の作用効果を奏する必要条件となるはずである。したがって、単に小径段部(12)とボス(4)との間隙がはめあい公差より縮小するだけでは、何らセンタリング機能に寄与せず、本件発明の作用効果を奏することはないというべきである。
ウ さらに、この世に完全な剛体というものが存在しないことは技術常識であるから、つばと内輪との接合部からつばまでの剛性を、低く設定していない従来技術においても、締付けボルトを締め付けた場合、つばの断面に、締付け力によりつばをたわめるような偶力が作用し、小径段部がたわむこと(傾斜すること)は、その構造上明らかである。すなわち、原告が主張する「つばの傾斜による外径拡大を通して、小径段部とボスとの間隙がはめあい公差より縮小する」ことは、程度の違いこそあれ、従来技術の実施品においても必然的に生じていたこととなる。
そうすると、本件発明は、そのような小径段部のたわみの程度を高くしたものにすぎないが、それにもかかわらず、本件発明が特許を受けることができたのは、その結果、つば(11)の断面を僅かに傾斜させ、「小径段部(12)の内側の端縁を、ボス(4)の内周面に近接、最終的には全域的に対接させることができ、はめあい公差の範囲で偏心することなく、回転体固定状態における回転体(B)のセンタリング効果が従来のものに比べて一層向上したものとなる。」という従来技術において奏することができなかった特段の作用効果を奏することができたからと解さざるを得ない。
エ 以上より、原告の主張は採用することができない。
(4) そして、本件発明の以上のような作用効果は構成要件Dの構成によって奏せられるものであるから、構成要件Dにいう「剛性を比較的低く設定した」とは、締付けボルト(3)、(3)の締付けによってつば(11)断面が僅かに傾斜して、小径段部(12)の内側の端縁をボス(4)の内周面に全域的に対接させる程度のものを意味すると解するのが相当である。
(5) そこで、イ号物件が、上記のように解釈される本件発明の構成要件Dを充足し、本件発明の作用効果を奏しているかどうかを検討するに、原告は、イ号物件が本件発明の構成要件Dを充足し、本件発明の作用効果を奏している理由として、イ号物件の1ないし3については、イ号物件の1ないし3のすきまの推奨値が小さいことを理由に、全域的に対接するか、あるいはそれに極めて近い状態となること明白であると主張する。しかし、上記各物件の外輪及び小径段部が回転体に対し、内輪が軸に対し、それぞれ、はめあい公差で装着される場合であって、通常の取り付け方法に従って取り付けられる場合に、小径段部12の内側の端縁が、ボス4の内周面に全域的に対接することを認めるに足る証拠はない。また、イ号物件の4ないし6について、原告は、締め付けボルト締め付け前における小径段部の外周の間隙が、つばの傾斜による直径拡大によって、当初よりも小さくなることが明白であると主張するのみで、上記各物件が、上記認定したところの本件発明の作用を奏することについては、何ら主張・立証しない。そして、本件全証拠に照らしても、イ号物件が、上記の本件発明の作用を奏していると認めるに足る証拠はない。
なお、原告は、イ号物件がボルト締付け後につばが傾斜することの証拠として、広島県立西部工業技術センターにおいてイ号物件3及び6の締付け前と締付け後におけるつば部の形状測定の実験結果を提出している(甲8、9)。
実験結果によると、イ号物件3及び6は、つばのフランジ面が傾斜していることが認められる。
しかしながら、上記フランジ面の傾斜は、軸側よりも回転体側が低くなるような傾斜となっている。このような傾斜によって、小径段部がボスに当接するのは、別紙図面第二にあるように、つばが、締付け力によって、軸から浮上った状態になるからと考えられる。仮に、つばが、軸から浮上らなければ、このような方向の傾斜では、小径段部はボスから離れる方向に傾斜することになるため、当接は不可能であると考えられる。そして、甲8及び9の実験結果からは、つばが浮上った状態になっているかどうかは不明であり、また、仮に浮上っているとしても、どの程度浮上っているのか、その浮上り方が、小径段部をボスに当接させる程度のものなのかどうかも不明である。
したがって、これらの実験結果からは、本件発明の作用を奏しているかどうかについては不明といわざるを得ず、上記裁判所の認定を覆すものではない。
よって、イ号物件が、本件発明の作用効果を奏しているとは認められず、本件発明の構成要件Dを充足するものとは認められない。
(6) 以上より、その余の争点について判断するまでもなく、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するとは認められないから、被告がイ号物件を製造、販売することが、本件特許権を侵害しているとも認められない。
2 争点2(1)について
(1) 元来、商品の形態は、主としてその具備する機能を最も良く発揮させる目的や美感を高める目的で選定されるものであって、商標のように商品の出所を識別させる目的で選定されるものではない。しかし、当該商品の形態が同種の商品と識別できるだけの個性的な特徴を示す場合には、長期間独占的に使用するとか、宣伝広告を積極的に展開するとか、種々の媒体に取り上げられるとか、多くの販売実績を積み重ねるとかの事情が重なることによって、需要者の間において、その形態を有する商品は特定の事業者が製造販売している商品であるとの認識が浸透することがあり得、その場合には、商品形態も不正競争防止法2条1項1号にいう周知の商品表示たり得ると解される。
(2) 証拠(甲3)によれば、原告商品の形態は、原告主張(第3、4【原告の主張】(1))のとおりであることが認められる。
原告は、原告商品においては、つば11の内側に小径段部12がある点が特徴的であると主張する。
確かに、つば11の内側に小径段部12を設けた回転体固定具が、原告商品の販売開始前から、市場において流通していたと認めるに足る証拠はない。
しかしながら、原告が原告商品の特徴と主張する小径段部の幅は、わずか1.3ミリメートルから2.0ミリメートルにすぎないから、その形態のみに着目した場合、他の同種商品と識別できる程度の特異な形態を具備していたとは、およそ認めることができない。
なるほど、原告商品の小径段部は、客観的には回転体固定具のユーザーの購買動機の一つとなるセンタリング効果を高める機能を有しているから、ユーザーが着目しやすい部位であるとも考えられる。しかし、このような商品の形態のみの特異性ではなく、商品の形態がもたらす特別な機能の結果、当該形態が、同種商品と識別できる程度の商品表示性を具備していると評価できるためには、当該特別な機能が当該形態に結びつけられて需要者に認識されている必要がある。
甲18によると、原告は、次のとおり原告商品の広告を掲載していることが認められる。
ア 「機械設計」昭和60年8月号から平成元年2月号まで
「ツバとインローのW効果により群を抜くセンタリング効果を発揮します。」との記載の上に、ツバとインロー(小径段部)部分を丸で囲んだ原告商品の断面図を掲載されている。
イ 「機械設計」平成元年3月号から平成4年8月号まで
原告商品の「特徴」として「軸に対する、ボスのセンタリング効果が抜群です。」「激しい衝撃荷重、重荷重もノーバックラッシュで伝達できます。」など5つの記載があり、それと並んで、「原理」としてアと同様の原告商品の断面図が掲載されている。
上記のことからすると、原告は、アの広告において、原告商品のインロー(小径段部)を、センタリング機能と結びつけて強調していたものと認められる。ただし、イは、小径段部とセンタリング機能との結びつきがアと比較すると弱いものとなっている。また、上記広告のいう「つばとインローのW効果による」センタリング効果とは、広告に掲載されている断面図から明らかなように、原告が主張するような軸の軸線と直交方向のセンタリング効果ではなく、「小径段部12の外周側に続くつば11の側面13を内輪1の軸線に直角な平面部としたこと」による、軸の軸線と直交方向のセンタリング効果を意味している(特に甲18の18を見るとそのことがよく分かる。)。
ところで、イ号物件の販売は、昭和63年からであるが、その時点で原告は、いまだ上記広告を開始してから3年程度しか経過していない(広告回数にして40回程度)。そして、その間に、原告商品が多くの販売実績を積み重ねたと認めるに足る証拠はないことや、取引者・需要者の間において小径段部の形態が特に注目されていたことをうかがわせる証拠もないことからすると、昭和63年当時において、小径段部がもたらすセンタリング機能が小径段部の形態と結びつけられて需要者に広く認識されていたとは認められない。
また、昭和63年以降、原告及び被告以外にも複数の同業他社が、つばの内側に小径段部を設けた回転体固定具を販売している事実が認められる(乙6ないし9)ことからすると、原告商品の形態が、被告商品の販売が開始された時点から現在に至るまで、原告の商品表示として需要者に対し、広く認識されていたことがあったとは認められない。
(3) 以上より、その余の争点について判断するまでもなく、原告の不正競争防止法に基づく請求も理由がない。
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